国会の質疑時間は、「与党2割・野党8割」から「与党7割・野党3割」へ?
国会における野党の質疑時間が、大幅に縮小される恐れが出てきた。
政府・自民党は27日、衆院での与野党の質問時間の配分を見直す方向で調整に入った。議席割合より多い野党の質問時間を減らすことを検討している。
日本経済新聞によれば、10月27日に安倍首相が荻生田光一幹事長代行に野党の質疑時間の見直しを指示したという。
安倍晋三首相(自民党総裁)は27日、首相官邸で萩生田光一幹事長代行と会い、国会での野党の質疑時間を与党よりも大幅に多くする慣例について、見直すよう指示した。衆院選での自民党圧勝を踏まえ「我々の発言内容にも国民が注目している。そういう機会はきちんと確保していく努力を党にやってほしい」と語った。萩生田氏が明らかにした。
同記事には次の記載もある。
同じ27日の2つの動きの前後関係は不明だが、若手議員の声を安倍首相が受けて対応したというよりは、安倍首相の意向を受けて若手議員が行動に出たと考える方が自然だろう。
同日27日の菅官房長官の記者会見で冒頭質問を行った朝日新聞の記者によれば、若手議員らは予算委員会を特にあげて、「与党2(割) 対 野党8(割)」という時間配分についての見直しを求めたという。
しかしこれは、予算委員会だけの問題にとどまらない可能性がある(予算委員会だけでも大問題だが)。
上に示した通り、安倍首相の指示は、特に予算委員会に限った話ではない。また、菅官房長官も記者会見で上記の朝日新聞の記者に見解を問われ、
「議席数に応じた質問時間の配分を行うべきだという主張は国民からすればもっともな意見だ」
という趣旨の回答を行っている。
もし衆議院の議席数に応じた質問時間の配分が行われれば、自民・公明で3分の2の議席を占めているため、現在は与党2割・野党8割である質疑時間が、与党7割・野党3割と逆転しかねない。
「中略」
政府が出す法案は既に自民党の検討と了承を経ている
野党の質疑時間の短縮は、予算の審議や政権運営に関する質疑を損なうと共に、法案審議の意義をおおいに損なう。以下では法案審議の場面に限定して、問題を指摘したい。
議院内閣制の下で、与党は政府提出法案については、国会提出前に既にその内容の検討を終え、了承を行っている。従って、国会の法案審議において、与党と野党の果たすべき役割は大きく異なる。
具体的な役割の違いについては、第二次安倍内閣(2012年12月26日~)で厚生労働大臣を務めた田村憲久衆議院議員が、かつて、自身のブログでわかりやすく解説している。
田村のりひさ●かわら版●「部会と委員会1」(2005年9月23日)より(抜粋)
自民党の部会は党の政務調査会の中にあります。政調会長の下に基本的に各省庁に対応したかたちで部会が作られています。昨日もお話ししましたように、この中の厚生労働部会の責任者(部会長)を私はおおせつかっています。
この機関は党においての政策の責任機関で法案を国会に提出するときには、かならずここで了承を得なければなりません。また、その時々の関心のある事柄もここで報告を受けます。
部会員は原則自由で自民党の議員ならだれでも好きなときに参加できます。党内の多様な意見の調整、まとめをしなければならないので、結構大変です。(時には罵声も飛び交います。)
さて、ここで了承を得た法案は次に自民党の政策審議会と総務会を通過後、閣議決定を経て国会へと提出されます。その後与野党の国会対策委員会や議員運営委員会で調整され、いよいよ、国会の各委員会へ付託されます。ここからが委員会の出番です。
田村のりひさ●かわら版●「部会と委員会2」(2005年9月24日)より(抜粋)
委員会では法案を可決するために、参考人招致から委員会審議また、法案の修正、付帯決議などいろいろな話し合いが行われますが、基本的には与党は法案を成立させるために活動をします。その為に時間の都合で与党は自らの質問時間を犠牲にすることも希ではありません。(もっとも、先日も申し上げたよう与党は既に部会で十分議論していますが。)このようにして、部会から委員会に法案が移っていき成立をしていくのです。違いが解って頂いたでしょうか。
最後に一言で違いを言えば、「与党にとって部会は政策を議論するところ、委員会は議論を尽くした法律案を成立するための作業をするところ」でしょうか。
与党の部会が十分議論した内容が法案として国会の委員会に出てくるのだから、国会の質疑時間が野党に厚く配分されているのは理にかなっている。自信をもって国会に提出された法案であれば、野党の追及に対しても的確に答弁によって反論し、理解を得ることが可能なはずだ。
にもかかわらず、野党の質疑時間の圧縮をねらうのは、野党の追及に耐えられないことを恐れているからではないか。「中略」
たとえば安全保障関連法案や共謀罪法案をめぐる国会審議においては、野党が核心を突く質疑を行ったのに対し、政府側がまともな答弁を行うことができず、法案におおいに問題があることが明らかになった。にもかかわらず懸念点が払拭されないまま強行採決を行ったことは、国会前の抗議行動としてあらわれたように、世論の強い反発を招いた。
強行採決は政権運営の安定に尾を引き続ける。数の力だけで政権運営ができるわけではない。
この秋に臨時国会があれば与野党の対決法案となる予定だった「働き方改革」一括法案の要綱には、かつて2015年に国会に提出された「残業代ゼロ法案」の内容(高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大)が抱き合わせで含まれているが、この「残業代ゼロ法案」が2015年の国会で審議できなかったのも、審議すれば野党の追及から長時間労働を助長するという問題点があらわになり、数の力で成立させることが困難だと判断したからだろう。
数の力だけで政府が国会を乗り切ることができないのは、充実した野党の質疑時間が確保されていてこそだ。野党の質疑は、政権の暴走を食い止める大事な役割を担っているのだ。もし野党の質疑時間が短縮されれば、法案の問題点が明らかになることもないままに、粛々と法案が成立していくことになりかねない。「中略」テレビでは国会審議のほんの一部しか中継されず、ニュースで取り上げられるのもほんの数秒の断片だけだが、こうした理詰めの緻密な質疑が行われて初めて、法案の施行段階での実質的な内実をより妥当なものに近づけていくことが可能になるのである。そのため、野党に十分な質疑の時間が確保されることは、充実した国会審議には欠かせない。
おわりに
ネットには、国会における与党の質疑は不要だとの意見もある。しかし野党が追及しない論点について与党が質疑をおこない、法案のねらいを政府側が答弁する機会も確かに必要だろう。また、小林史明議員(総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官)が指摘しているように、国会の質疑で大臣答弁を議事録に残すことの意味は、与党にとってもあるだろう。
いや、これ必要です。なぜなら党内の議論だと公式な答弁にならないので。与党側から質疑で明らかにすべき事はあります。行革関連や規制改革もある。高市総務大臣時代に指摘した保育所申請用の証明書のフォーマットが自治体毎に異なる事で無駄が多い件は、質疑を機に他の書類も含め整理がはじまりました https://t.co/syqKkOYpC5
— 小林史明(総務大臣政務官) (@kb2474) 2017年10月28日
しかし立憲民主党の枝野代表が10月14日の新宿の街頭演説で語ったように、民主主義とは単純な多数決ではなく、議論を尽くす過程を欠かすことはできない。
今多数を持っているからといって、説明をせず、反対の意見を無理やり押し切って、ろくな議論もしないで進めていくのは、民主主義じゃありません。
「議席数に応じた質問時間の配分を行うべきだという主張は国民からすればもっともな意見だ」という菅官房長官の記者会見における発言(趣旨)は、詭弁にすぎない。野党の国会質疑の短縮を画策することは、野党の質疑に耐えない国会審議が続くことを見越した上での、与党の弱さの表れであろう。
国会審議の形骸化をもたらす安倍総理の指示は、認めることはできない。
それでも安倍は無視するだろうと思うが「…