■自民党総裁選2018 安倍政権と官僚(1)
自民党総裁選では、「安倍政権と官僚」が問われる。政と官のいまをみる。
安倍内閣が24日に承認した省庁人事で、内閣府政策統括官の新原(にいはら)浩朗(ひろあき)が経済産業省の経済産業政策局長に就いた。近い将来の事務次官候補が座る枢要ポストだ。
1984年に入省した新原にとっては古巣への凱旋(がいせん)となった。首相の安倍晋三、その政務秘書官で先輩の今井尚哉(経産省、82年入省)が手腕を高く評価。働き方改革や幼児教育の無償化など、政権の目玉政策を進めてきた。政権5年半で大きく様変わりした霞が関で力を持つ「官邸官僚」の象徴的な一人だ。
3カ月前。消費税を来年10月に10%に引き上げる際の対策を検討する省庁横断の特命チームが内閣府で初会合を開いた。顔合わせのつもりで集まった関係省庁の局長らは、配られた1枚の紙を見てのけぞった。
「検討事項(案)」として、増税に伴う駆け込み需要や反動による消費の落ち込みについての対応策が13項目にわたって列挙。増税後の値引きセール推奨、自動車減税、合理的な購買行動の推奨――。それぞれに担当省庁の割り振りまで記してあった。まとめたのは新原だ。
消費増税は幅広い業種や消費者に影響するため、関係する省庁は多いが、新原がまとめた紙は担当する財務省や経済産業省の知見を集約したものではない。対応策は「再調整」という扱いにはなったが、特命チーム関係者の間では、安倍と新原の間で「もう話がついているのでは」との臆測が広がった。
安倍が政権に復帰して以降目立つのは、新原のように安倍に近い官僚らが主導して政策の方向性を決めていくスタイルだ。首相秘書官の今井や佐伯(さいき)耕三(経産省、98年入省)、内閣情報官の北村滋(警察庁、80年入庁)、官僚OBの首相補佐官である長谷川栄一(経産省、76年入省)、和泉洋人(旧建設省、76年入省)はこの5年半、変わらず安倍の周辺にいる。
安倍と以心伝心の「官邸官僚」たちの指示は、省庁幹部から「首相の威光」と受け止められる。それは「最強官庁」と呼ばれた財務省も例外ではない。(岡本智、伊藤舞虹)「中略」■責任負わない「政治主導」
官邸が官僚を従える力の源泉は人事だけではない。
安倍政権は、重要案件ごとに内閣官房や内閣府に省庁横断の組織や会議を次々と設置。各省庁から政策立案の権限を奪い、一部の「官邸官僚」が政策を動かすことが常態化している。
安倍が掲げた「人づくり革命」を具体化するため、昨年9月に立ち上げた「人生100年時代構想会議」は、その典型だ。内閣官房に置かれた「推進室」には各省庁から約30人が集められた。
政策の骨格は内閣府政策統括官だった新原浩朗や首相秘書官の今井尚哉らが検討。財政悪化につながる3~5歳児の教育・保育の無償化や、消費税の使途拡大による財源確保を財務省にのませ、安倍の衆院解散表明にあわせて打ち出した。
結論を急ぐあまり、担当省庁による十分な政策検証は置き去りにされた。無償化で待機児童が逆に増えるなどの批判が噴出しても、官邸は公約実現に向けて突き進んだ。
昨年末、改革の大きな道筋がつくと、推進室の多くの職員が席を引き払った。寄り合い所帯で作業が終われば散っていく組織の責任はあいまいになりがちだ。政策決定を主導する首相秘書官や補佐官も、国会答弁に立つことはまずない。
官邸主導は本来、二大政党間で政権交代があることを前提に、短期間で政治の結果を出せる仕組みをめざした姿だった。しかし、5年半を超える長期政権で政権交代の緊張感は薄れた。「政治主導」を掲げながら、財務省による公文書改ざんなど、大きな不祥事が起きても誰一人、政治責任を負わないいびつな構造ができあがった。
組織防衛を本能とする官僚たちはいま、安倍に近い甘利明が自民党行政改革推進本部長として旗を振る「省庁再々編構想」におびえる。国家予算の3分の1を使う厚生労働省の解体などが現実味を帯びつつある。「それはそうだな」。巨大官庁の分割案に安倍も受け入れる姿勢だ。(座小田英史、松浦祐子、福間大介)