自民党さえ無視し、日本会議との二人三脚で改憲を進める安倍首相 | ハーバービジネスオンライン
安倍側近で固められた「憲法改正推進本部」
臨時国会の冒頭を飾る10月24日の所信表明演説で安倍晋三首相は
「国の理想を語るものは憲法です。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深める努力を重ねていく。そうした中から、与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信しています」
と、述べた。
「中略」
いま、政権は、この臨時国会での改憲作業の着手へと本腰をいれつつある。
臨時国会に先立ち、自民党は党内改憲作業に従事する人事を一新してもいる。総裁直属機関である「憲法改正推進本部」の本部長に首相側近の下村博文を起用し、また党として改憲案を最終決定する総務会長にはこれも首相の信頼厚い加藤勝信を配属した。
これで党内改憲作業からは、長年改憲作業に従事してきた船田元や中谷元などいわゆる「憲法族」が完全に排除され、代わりに安倍晋三個人の側近たちが改憲作業を進める体制ができあがった格好だ。
国会での改憲発議に必要な衆参両院3分の2議席を確保するためには、連立を組む公明党の協力が不可欠。その頼みの綱の公明党は未だこの臨時国会での改憲発議に慎重な姿勢を崩しておらず、山口那津男代表が「政府は余計な口出しをしないでほしい」とけん制するなど、重ねて慎重な対応を求める姿勢を示し続けている。
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しかし、安倍首相とその側近たちによる改憲への取り組みは止まるところを知らない。
その中でもとりわけ前のめりな姿勢を示すのが、下村博文だろう。先述のとおり自民党の「憲法改正推進本部」の本部長に就任した直後から活発な動きをみせている。去る10月26日には、山口泰明組織運動本部長と連名で「各選挙区支部における『憲法改正推進本部』の設置等について(要請)」なる文書を全国の衆議院選挙区支部長宛に発行した。
これが取材の過程で入手した当該文書のコピーだ。
「中略」しかし不思議な話ではある。全国の衆議院選挙区で選挙区支部単位の「自民党憲法改正推進本部」を設置することは可能だろう。目下のところ、自民党が候補者を擁立しない、つまりは支部のない選挙区がないわけで、全国全ての選挙区で自民党がどんな部会を立ち上げようが、自民党の一存で完結する話ではある。
しかし、「共鳴する民間団体」との「連絡会議」はそうはいかない。「共鳴する民間団体」の方でも、自民党と同じように、全国各地の選挙区で運動を展開しているという実績がなければ叶わない話だ。「中略」この文書はあくまでも、自民党の「憲法改正に共鳴する民間団体」も自民党と同じように、全国津々浦々で活動しているという前提に立っている。
全国規模で改憲運動を展開する民間団体……。となると、事実上、日本会議しかありえない。
日本会議は改憲運動のためのフロント団体「美しい日本の憲法を作る国民の会」(櫻井よしこ・田久保忠衛・三好逹=共同代表 椛島有三=事務局長)を通じて、すでに北は北海道南は九州沖縄までに渡る「全国キャラバン運動」や改憲に賛同する署名1000万筆を集める署名運動などを全国規模で展開し、改憲国民投票に向けて有権者各層からの支持取り付け活動を行なっている。また、日本会議の支部は2018年10月現在著者が確認しているだけでも全国に239箇所存在している。
確かに、改憲を目指して活動する市民団体は日本会議以外にも複数存在するが、「全国各地の支部」「全国横断的な活動実態」という実績からみれば、先の文書で自民党の「憲法改正推進本部」が想定する「共鳴する市民団体」「全国の自民党支部と連絡会議を設置」できる市民団体となると、日本会議以外みあたらないのが事実だ。
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自民党憲法改正推進本部事務局からは回答なし
そこで、前出の文書に記載された自由民主党憲法改正推進本部事務局の連絡先にメールと電話双方で取材を申し込んでみた。「この文書が想定する『共鳴する市民団体』とは、やはり日本会議のことなのか?」を確認するためである。
しかし、締切時点で、自民党憲法改正推進本部からは、メールの返事はない。また、文書に連絡先として記載されている電話番号にも数度電話をかけたが(番号そのものは自民党党本部の代表番号。そこからの内線転送となる)、その度にコール音がなるのみで、交換台に戻され「誰もいないようです」の返事が返ってくるのみだ。
あの文書を起案した自民党憲法改正推進本部の見解は直接確認できなかったが、現実問題として、全国横断的に自民党と共同歩調で改憲運動を展開できる市民団体となると、規模から見ても実績からみても、日本会議以外存在しないのは先に振り返った通りだ。
また、今次の臨時国会で自民党が国会の憲法審議会に上程しようとしている所謂「改憲4項目」の内容が、自民党が野党時代に自民党の総意として作り上げた「平成24年度版自民党憲法改正草案」とは全く別物の、いわば「安倍首相の腹案」程度のものであるということも注目に値しよう。なんとならば、安倍首相がこの「腹案」を初めて表明したのは、自民党内部の会合でも国会でもなく、日本会議が昨年5月に開催した「第19回 公開憲法フォーラム」に寄せたビデオメッセージのことだったからだ(なおこのイベントの共催は「美しい日本の憲法をつくる国民の会」と「民間憲法臨調」ということになっているが、両団体とも日本会議が改憲運動で擬態するためのフロント団体に過ぎない)。
ということは……。
目下、安倍首相とその側近が、半ば自民党のこれまでの改憲議論を完全に無視して推し進めようとしている改憲作業とは、日本会議の各地方支部と共同歩調をとって推し進められるものであり、その内容は、安倍首相が自民党内部ではなく、日本会議と真っ先に共有した内容のものである……という結論以外は考えられないではないか。
だとすれば彼らは、「日本会議と自民党の共同作業」として、改憲作業を推し進めようとしているわけだ。
しかも、こうした動きが自民党の中で議論された形跡は一切ない。党の総意を諮る総務会で議論された形跡もない。
匿名を条件に取材に応じてくれた自民党の衆議院議員は、「4項目4項目って騒いでいるけど、紙切れ一枚回ってきただけで、そんなもん議論もなんもないよ」と突き放し気味に語ったほどだ。
「中略」
党内の手続きさえ軽視するこの改憲作業が、国会に上程されようとしている。その後にどのような議論が展開されようとも、出発時点で身内の合意さえ得られていないような代物が、国家の手続き論を定める憲法の草案として不適切なものでしかないことなど、火を見るよりも明らかだろう。