2月6日に「水道法改正」が成立した。多くのメディアは、これを「水道民営化」と報道している(例えば https://www.fnn.jp/posts/00397400HDK)が、この言い方、ものの見方は正しいのだろうか。
「民営化」でないものを「民営化」と称して、「外資が乗っ取る危険がある」という批判はいつの世も出て来る。筆者は役人時代に郵政民営化など本物の「民営化」の企画立案をしてきたが、本物の「民営化」でも外資乗っ取りは避けることができる。このため、本物の「民営化」であっても、外資に乗っ取られた事例は、筆者の関する限りは一例もない。
というのは、民営化を進めると同時に、国際標準の「予防対策」もしていたからだ。例えば、郵政民営化の場合、郵貯が民営化により銀行法上の「銀行」になるが、銀行には次の三つの主要株主規制がある(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/2076)。
第一に株式を5%超保有する場合の「大量保有規制」。第二に、株式の20%超を保有する場合の「銀行主要株主規制」。第三に、株式の50%超を保有する場合の「支配株主規制」だ。これらの規制があるために、郵貯が銀行法上の銀行となっても(現に三菱東京UFJ銀行が外資に乗っ取られないのと同様に)、外資が乗っ取ることはできないだろう。
そもそも筆者からすると、今回の水道法改正法案を読んでも、どこが「民営化」なのかさっぱりわからない。この水道法改正は、従来の民有民営の定義による「民営化」ではなく、「官民連携」というものだからだ。
「官民連携」の場合、施設所有権はこれまでどおりに官が持つ。また、これはいまも行われている民間への業務委託の延長線の経営効率化で、本物の「民営化」にはほど遠いものだ。乗っ取ることができないことは、「企業オーナー」をイメージしてみれば分かるだろう。つまり、いくら経営権があっても、雇われ社長(民間)はオーナーには頭が上がらないからだ。
そうしたものを「民営化」と一言で片付け、ステレオタイプの批判をするのはミスリーディングである。メディアの中には「民営化」とさえ言っておけば、その報道に条件反射する人がいることを知っているのだろう。
「水道民営化」のあまりに雑な議論に覚える強い違和感(髙橋 洋一) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
たったの8件になぜ注目するのか
いずれにしても、日本では、7000の「事業」のうちほとんどは①直轄公営というのが実情である。さて、ヨーロッパではどうなのか。先ほどの資料でも、各国制度が異なるので、各国を横断した統計数字は載っていないが、ドイツにはやや詳細なデータがある。それによれば、ドイツの事業数は6000程度あり、内訳は②公営委託3900、③民営委託2100程度となっている。ヨーロッパの中でも、イギリスやチェコを除いて④民間会社はあまりないようだ。
一方、反対派の「ネタ元」となっている資料をみると、ドイツでの再公営化の実例は8件となっている。これは、基本的には③の民営委託から②の公営委託への経営形態への移行だろう。先に述べたパリの水道事業の再公営化も、④民間会社から①直轄公営、ではなく、④民間会社から②公営委託への移行とみていい。つまり、反対派が掲げる「再公営化」というのは、日本でいうところの①直轄公営ではなく、②公営委託だろうことに留意が必要だ。
大阪市でも議論になった「水道事業問題」も、よく見れば、②公営委託である(http://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000387153.html)。これは、国でいえば、国の事業としてではなく、事業はそのままで国の子会社である「特殊会社」にその事業をやらせるだけであるので、この案がなぜ否決されたのか不思議なくらいだ。
そのときの議論でも、意味不明な「民営化」という言葉が一人歩きして、議論が混乱した印象がある。大阪市の提案に反対者から「パリでは(民間化が失敗して)再公営化となったではないか」といわれたら、そもそも大阪市が目指すのはその形(つまり、パリは②への移行を行った)なのだから「はい。だから、その通りにやります」といえば、済む話ではなかったのだろうか。
さて、ドイツでの再公営化の実例が8件あった、というのは、「8件もあったのだから、やはり民営化は問題なのだろう」ということでマスコミ受けするだろう。しかし(そもそも「民営化ではない」という点は置いておいたとしても)、8件を比率でみたらどうなるのか。先にも見たとおり、ドイツの「民営委託」は2100件である。そのうちの8件が②公営委託に移行したというのだから、(これを失敗して移行した、とするならば)失敗率は、2100分の8で0.4%だ。
「中略」
これらの数字を見る限り、どう考えても、水道事業の失敗率は1割にも達していないのだろう。その逆に、成功率は9割……というつもりはないが、すくなくとも「官民連携」は失敗確率の低い政策である、とは言えるだろう。
民主党時代に言うなら分かるが…
さて、日本の自治体が実際に水道事業の②公営委託や③民営委託への移行を検討する場合、「市場化テスト」を行う必要がある。これは、現状のままで水道事業を行うのと、民間などに委託した後でどれだけコストが下がるかや、提供サービスの質が維持されるかをチェックするものだ。
コストが下がらないのであれば、移す意味はないのだが、逆に言えば、事業運営のコストを下げるための「官民連携」に反対する者は、今の現状がベストなので、これを維持しておきたいという前提があることに留意しておくべきだ。
公務員労働組合がそう主張するのは当然であるが、これまでの実証分析では、民間などでも提供可能なサービスでは、多くの場合、サービス水準が同じでも、コストは委託のほうが安くなるという結果がでている。つまり、いまの役人組織による運営には、省けるムダが多いということだ。
「中略」
実際にどうなるのかは個別のケースでチェックされるわけだが、②や③を行う首長が最終判断をして、それを住民に説得するためには、「市場化テスト」の結果をわかりやすく説明しなければいけない。
このままでは、日本の核自治体では人口減少が進んで、水道事業はじり貧になることは目に見えている。設備固定費は人口減少で割高になるからだ。水道事業は、当面広域化で対応するが、そのうちに経営形態の見直しに対応しないと、じり貧のままである。要するに、①直轄公営のまま「じり貧でドボン」するのか、②公営委託か③公営委託でじり貧を緩和するかという選択である。それは、地方の首長の判断次第だ。
今回の水道法改正は、2011年改正PFI法よりほんの少しだけ、地方の首長が決断を下す際に役に立つものとなった。繰り返すが民営化ではなく、そもそも官民委託の議論であり、官民委託が問題だというのならば、2011年改正PFI法の時に議論すべきだったのだ。
そのときこの法案に賛成したのは民主党議員である。今回の改正に反対した立憲民主党、国民民主党、無所属議員の中には「元民主党議員」がたくさんいるが、そうした人たちの変節には本当にあきれてしまうばかりだ。
「水道民営化」のあまりに雑な議論に覚える強い違和感(髙橋 洋一) | 現代ビジネス | 講談社(4/4)
うーん、なんとなく怪しい気がしてきた!!!!!