■共謀罪成立で監視捜査は合法化するか
現段階で「一億総監視下社会」への危惧を唱えるのはヒステリックすぎるのだろうか?
『スノーデン 日本への警告』(集英社刊)では、「共謀罪が成立すれば、共謀の事実を立証するための重要な捜査手法として、近い将来にSNSや電子メールの内容を傍受する監視捜査の合法化が求められるでしょう」と、この法案成立後の法整備の動きに対して警鐘を鳴らしている。
本書では、元NSA(アメリカ国家安全保障局)の職員で、同組織が極秘に運営していた、違法性の高い通信監視プログラムPRISMの存在を告発したエドワード・スノーデン氏が、アメリカの監視活動の実態や、そのアメリカの状態に日本が近づきつつある点、そして国家が個人を監視することの真の問題点を語る。
■エドワード・スノーデンが語るプライバシーの真の意味
先述の警鐘とも受け取れる言葉自体はスノーデン氏によるものではない。しかし、氏が日本に抱いている印象は深刻なものだ。
共謀罪が国家による国民の監視を可能にし、国民のプライバシーを制限しうる点は、プライバシー権に関する国連特別報告者のジョゼフ・ケナタッチ氏が日本政府への書簡であらわした懸念でもあり、記憶に新しい。
政府や当局に監視されたとしても「自分からは何も出てこないよ」と考える人は多いのではないか。大多数の人は、自分が犯罪を起こすとは思っていないし、今の自分の生活が法を犯しているとは考えもしないからだ。
しかし、国家による国民の監視とはそういうものではないとスノーデン氏は言う。
――今現在のあなたにとって、プライバシーはそれほど大切ではないかもしれません。しかし、少し想像してみて下さい。プライバシーがなくなれば、あなたはあなた自身ではなくなるのです。社会のものになってしまうのです。(P68より引用)
自分は日本人だと自覚している人でも、「あなたは日本という国家の所有物だ」と言われたら抵抗を感じるだろう。
しかし、国家が個人のプライバシーにどのような形であれ立ち入るということは、国家が個人のあり方に干渉するということだ。それを許した時、国民は国家に所有されるだろう。決して「自分にやましいことはない」で済ませていい問題ではないのだ。
プライバシーは力であり、他人に害を与えない限り自分らしく生きることのできる権利だとスノーデン氏は語る。アメリカでは、スノーデン氏の告発により、政府によるプライバシー侵害の事実が明らかになり、プライバシーと国家安全保障のバランスをいかに取るべきかという議論が始まった。
政府のいう「テロ対策」という大義名分を信じるのであれば、この議論がないまま、法案の成立だけが急がれているのが今の日本である。
本書で明かされているスノーデン氏の警鐘の言葉は、日本が大きなターニングポイントにある今、耳を傾けて損はないはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。
ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2017/06/post_19440.html
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「共謀罪法」成立に対するスイスメディアの反応
では、山城氏が「表現の自由が侵害されるのではないか」と疑問を投げかける「共謀罪法」成立のニュースは、スイスの主要メディアでどのように伝えられたのだろうか?
安倍政権が成立させた「組織的な犯罪の共謀罪」法では、277の犯罪に関して、犯罪の準備行為をした段階で処罰できるようになる。ところが、スイスのメディアでは、テロ対策よりも、プライバシー権と表現の自由が制限される可能について主に報じられた。
スイスの通信社ATSは15日、「日本政府は個人の自由を脅かしかねない法案を強行採決した」と報道。また、「この法律では、テロや犯罪行為の計画や実行に加わる個人やグループの起訴が可能になる。しかし、人権団体、日本弁護士協会、多くの学者などは、この法が歪曲され無実の市民の通信が傍受されたり、憲法が保障する自由が制限されたりする可能性があると危惧している」と伝えた。
スイスドイツ語圏の新聞NZZは、「物議を醸す共謀罪法」と題して、「野党やデモ参加者の猛烈な抗議にもかかわらず、日本の保守的な政権のもとで木曜日の朝、議会は組織犯罪やテロに関する法案を可決し成立させた。安倍晋三首相は、法律は2020年の東京オリンピックでの安全を確保するために必要だと強調した」と報じた。
そして、「野党や評論家は、日本が監視国家になるのではないかと危惧する。民進党の蓮舫代表は、思想の自由を制限する残酷な法律だと語った。この法律により、組織的な犯罪集団による重大犯罪の計画は監視され、処罰の対象となる。そうなると日本は、『犯罪は、犯罪行為の後にのみ処罰され得る』という原則から外れる。数千人もの日本人が国会の前で、この法律に反対するデモに参加した。日本弁護士協会は、この『テロ対策法案』では対象となる277の『重大犯罪』が、異例なほど広く解釈されているとして批判している。それには、住宅の建設に抗議する座りこみや、音楽の違法コピーも含まれている」と解説した。
また、国連人権理事会のプライバシー権の特別報告者ジョセフ・カナタチ氏はすでに5月、対象となっている犯罪の多くのケースにおいて、組織犯罪への関連が明確ではないと非難していた。カナタチ氏は、日本は、プライバシー権や表現の自由の権利が不当に制限される危険にさらされていると批判し、木曜日に日本に対し自由権の保障策を促した」とNZZは続けた。
言論と表現の自由に関する国連特別報告者の意見
沖縄には民主制の基盤がないのだろうか?その問いに対して、国連人権理事会の言論および表現の自由の保護に関する特別報告者、デービッド・ケイ氏は、「日本は比較的オープンな国。ただ沖縄問題に関しては、(米軍)基地周辺では、抗議をする余地も表現の場もない。閉鎖的で、抗議のための余地を見つけるのは難しい。さらに難しいと感じているのは、今回政府がとった政策により、今後一層抗議が難しくなるのではないかということだ。沖縄には、メディアの問題、差別問題など他にも問題があり、地元の人は制約されていると感じている」とスイスインフォのインタビューに対して答える。そして、「日本政府はそういったこと全体をもう一度考えるべきだ」と述べる。
ケイ氏は、「日本政府へ抗議をする余地を提供するよう求め、表現の自由、メディアの自由を促したい」と話す。また、「日本政府は対話をすべきだと思う。私は、今の状況の結果として負の結果が生じていると感じている」そして、「明らかに、公衆との意見交換を行うパブリックコンサルテーションが欠如している。公衆は、これらの決定に対して、自分たちがかかわっていると感じられなければならない。ところが今は、私にはそれが感じられない」と語った。